果実堂・谷口聡さんに聞く「DX化で進める、農業の未来」[後編]【ビィーゴ会員様インタビュー】

第25回目となるビィーゴ会員インタビューは、スーパーなどでもよく見かける“ベビーリーフ”を生産をしている農業法人、株式会社 果実堂に勤められている谷口聡さんのインタビュー。今回は後編をお届けします。

谷口さんの勤めている株式会社 果実堂は、ベビーリーフを有機農法栽培で年間900トンもの出荷をされていて、ベビーリーフの生産の関しては日本でもトップクラス。
自社でハウスの設計も行なっており、通常のハウスよりも2倍以上の収穫ができるという、ベビーリーフを作ることに徹底した会社です。

前半は谷口さんの今に至るまでのお話をお聞きしてまいりました。
後半では株式会社 果実堂が行っている様々な取り組みについてお聞きしました!

実は果実堂さん、なんとあのTV番組「がっちりマンデー!!」にも紹介されたことのある会社
お話を聞く中で、農業の未来に向けた様々な取り組みをされていることがわかりました。

とっても興味深いお話ですので、ぜひ最後までお読みください。
それではどうぞ!

【プロフィール】
谷口 聡

(株)果実堂 営業推進部 グループ長
和歌山県出身。子どもの誕生を機に枚方市に移住。全国4拠点にいるメンバーとともにリモートワークで営業活動を行っている。

株式会社 果実堂
日本最大級のベビーリーフ農場を展開する、熊本県に本社を構える農業生産法人。
提携生産者に技術指導を行うコンサル流通事業も展開中。

<インタビュアー>:アサカワ ミト(ビィーゴ コミュニティマネージャー)
          山﨑 謙(コミュニティマネージャー)

DX化に力を入れている果実堂

ミト

果実堂さんは、先ほどちょっとお聞きしただけでも、ベビーリーフに対する追求がすごいなぁと思ったんですが、他にはどんなことに力を入れているんでしょうか?

谷口さん

実は今、結構DX化(※)に力を入れていまして。

というのも、さっきのFAXの話じゃないんですけど、取引先が250社あると、250社それぞれでみんな発注の仕方が違うんですよ。

※DX(デジタルトランスフォーメーション)化とは、企業がデジタル技術を活用して、業務プロセスやビジネスモデル、組織を変革すること。

ミト

え、全部違うんですか!?

谷口さん

メールで来る、FAXで来る、LINEで来る・・・あるところでは、こっちから電話して数量を聞くこともあります。それだとあまりに手間じゃないですか。なので、どんどん自動化していこうと動いています。

ミト

絶対やった方がいいですね、それは(笑)

谷口さん

実はそれでうち、日本DX大賞(※)というのをもらったんですよ。

※日本DX大賞とは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて、社会やビジネスの課題を解決し、持続可能な成長とウェルビーイングを実現する取り組みを表彰するアワード

ミト

え、賞をもらってるんですか? じゃあもうだいぶDX化をしてるんじゃないですか?

谷口さん

進めていますね。

SX部門(※)っていうのがあるんですけど、他で残っていたのが、人工衛星から水道管の劣化具合がわかるっていう会社なんですけど、その中で大賞を頂きました。

※SX部門(サステナビリティトランスフォーメーション部門)とは、環境・社会課題の解決とビジネス価値の創出を両立させ、持続可能な社会の実現に貢献する取り組みを讃える部門。

山﨑

うわすごい。

谷口さん

何かシステムを導入した・開発したというわけじゃなくて、RPA(※)を組んで受注メールを自動化したとかなんですが。

でもそれの積み重ねで、年間5,000時間ぐらい受注業務を短縮できたんです。以前は残業も多かったらしいんですけど、今はもう、みんな定時で帰れるようになってますね。

※「RPA(ロボティック プロセス オートメーション)」は、ソフトウェアロボットを使って業務プロセスを自動化する技術。定型的なデータ入力や処理を人手を介さず実行し、作業の効率化やミス削減を実現する。AIと組み合わせることで、より高度な自動化も可能。

休めて稼げる農業にするために・・・

谷口さん

日本の農業って、高齢化もありますが旧態依然とした事務作業など、まだまだ古い体質なんです。改善すべきところがいっぱいあって。例えば、奥さんが夜なべをして請求書をチェックしているとか。

山﨑

生産者側の時短ってめちゃくちゃ大きな課題ですよね。農家さん、働く時間絶対長いもんなー。

谷口さん

弊社はそこをどんどん改善して、みなさんに休めて稼げる農業を目指してもらえるよう進めています。そうしないと、日本の農業従事者は増えないと思っています。

データをみると2000年の就農人数って389万人いたんですが、これが2010年になると146万人まで減ってるんです。このまま進んだら、20年後は30万人まで減る計算。20年前の10分の1なんですよね。

山﨑

そんなに減ります!?

谷口さん

これなんでかっていうと、50代以上の人が20年後に引退されると、こうなるって計算なんですよ。

ミト

うわーなるほど。そこで急に減っていくんですね。

谷口さん

農業生産法人も大きくなったり、メディアに出る会社が増えてきたりもして1軒あたりの生産量はどんどん増えてるんですけど。

こんなに人が減ってる産業ってどうなのってちょっと暗くなりますよね。

グラフをざっと見ただけでも減り方が・・・
ミト

うーん、確かにしんどいですね。

谷口さん

でも「食」って絶対、一番大事なところなので。だから各農業者さんの所得をあげたり、生産性も上げていかないと日本の農業が終わってしまうんです。

そこで今うちが進めている事業は、果実堂の栽培技術を生産者さんに無償で放出します。で、その分多く生産されたものは弊社で売るっていうことをさせてもらっているんです。
これが去年3億、今年6億で、来年は12億まで伸ばそうっていう具合ですね。

ミト

めちゃ伸びてる。それだけでなく、すごく志の高い会社さんですね。

谷口さん

ありがとうございます。自分たちだけじゃなく日本農業の総和を上げたいと思っています。今、うちの会社って絶妙なポジションにいると思っています。

ミト

絶妙なポジション、ですか?

谷口さん

果実堂は自分たちが培ってきた技術や栽培方法・効率化の指導・サポートを行っています。

それって、僕たちが生産者の立場でここまで会社を大きくしてきた実績があるから、アドバイスに説得力があると思っていて。

しかも、生産から販売まで自社で行っているので、どのステージでもサポートができて、みなさんを大きく伸ばすことができるんです。

ミト

生産者の立場で実績を上げてきたからチカラがある。確かに絶妙なポジションですね。

谷口さん

農業が変わるには、農家さん自身がもっと効率よく上げていかないとやっぱり厳しいです。

うちが培った技術を無償で提供して、農家の皆さんにうまく栽培してもらう。できた分は、当社が販売して、そこでマネタイズさせてもらう。

そうやって仲間を増やす取り組みを一昨年ぐらいから始めました。

ミト

それってもう至れり尽くせりで、生産者側もありがたいんじゃないですか?

谷口さん

プラスばっかりだと思いますよ。けど、いぶかしがられることも多いんですよ(笑)

山﨑

ああ、話が美味しすぎるから(笑) なんか使われてしまうんちゃうかって思っちゃうんでしょうね。

谷口さん

そうですね。僕たちは無償で技術提供しますが、その代わり、がっちりやっていきましょうって言って、生産者の事業計画、経営計画まで入ることもあります。

ミト

めちゃくちゃコミットしますね。

谷口さん

コミットしますね。そこまでやらないと動いてくれないし、真剣度が伝わらないんです。僕たちも資源を放出することになるので、真剣です。

土壌の水分量まで徹底管理

谷口さん

生産にも、もちろんサポートしています。

植物って90%以上が水なんですけど、その水を管理する学問ってないそうです。つまり水やり。何となく、畑が乾いたから水をあげるじゃないんですよね。

山﨑

確かに水の管理ってなかなか考えることないかも。

谷口さん

でも90%が水なら、ほぼほぼ水やんっていう話です。だから水の管理ってめっちゃ重要で。うちの代表はそこに着目しまして、土壌の水分量を徹底的に管理したんです。

たとえば、畑の土を握りますよね。で、手を開いたら握った土が崩れたり、固まったままだったりしますよね。その具合を見て、水分量何%だっていうのを全部記録したそうです。

それをランク付けして、「じゃ今この状態なんで、水を何分間あげましょう」ていうのを全部マニュアル化してあげるんですよ。

山﨑

うわー、おもしろ。

谷口さん

そうしたら誰がやっても同じようにできると。

なのでうちの栽培現場では、握ってぱっと開いたとき、1%誤差で当てられるように訓練しています。

ミト

うわ、それもう水管理職人ですね(笑)

谷口さん

たとえば、生産者から土の写真を「今こんな感じです」って送ってきます。そうしたら、うちのコンサルメンバーがそれを見て「じゃあ15分で」みたいな。

ミト

えー、写真でもわかるんですか。

谷口さん

写真でもわかりますね。土質っていろいろ違うんですけど、それも全部記録してるんで。もうね、とんでもなくマニアックなんですよ。

ミト

変態ですね(笑) でも果実堂さんが農業の未来を考えているのがよくわかります。

谷口さん

弊社は「サイエンス農業」を標榜してるんですけど、やっぱり大規模にやろうと思ったらロジカルにいかないとできません。

もちろん経験というのはこれからも必要だと思います。けどそれも全部理由、理屈があってそうなってるわけなんで。

それを全部分析して、誰でも出来るようになれれば、農業って大きく変われると思うんです。

ミト

今後人口が確実に減っていくってわかっている状況ですから、ちゃんと仕組み化して、みんなが一定のクオリティを保てるようにしないとなんですね。

谷口さん

じゃないと、農業は保たないですね。

山﨑

でも今のお話を聞いたら、「これやったらやってみよう」って思えますねー。仕組みがかっちりやなぁ。

谷口さん

あ、うち、「がっちりマンデー」にも出たんですよ。昔。

ミト

え、出てるんですね! 本物のがっちりじゃないですか。

山﨑

いや、それくらいの規模だともしかしたら出てるんちゃうかなと思ってたんですよー!

ミト

いやー、すごい面白いお話がたくさん聞けました。今日はどうもありがとうございました!

谷口さん

こちらこそ、ありがとうございました。

編集後記・・・

いかがでしたでしょうか。

日本の農業の危機って、ちらほらとは聞こえてきますが、具体的な状況や課題を知ることってなかなかないので、とても勉強になりました。また、果実堂さんの様々な取り組みにも希望を感じることが出来て、今後どうなっていくのか注目したいです。

そして、谷口さんのエピソード。最初からバリバリ働かれていたのではなく、長い間くすぶっていたというお話は同じく長く燻っていた自分にとっても勇気づけられました。今後どこかで、誰かを勇気づけられるような場や機会が持てるといいですね。

谷口さん、ありがとうございました。

それではまた次回もお楽しみに!

過去の会員インタビュー

過去の会員さまインタビューのまとめ記事を作りましたので、ざっと知りたい方はこちらを読んでみてください!


この記事を書いた人
アサカワ ミト
ビィーゴ コミュニティマネージャー(アナタとおしゃべりしたい人)
イベントを企画したり、ビィーゴを通して枚方の面白さを発掘したりしています。
演劇活動もしており、カフェなどの日常のそばで小さな公演をしたり、一般の方にも演劇を体験していただける「演劇であそぶワークショップ」などの活動もしています。